バスクの誇り・アスレチック・クラブとは?歴史・ファン文化・街との関係性を深掘り

スペイン北部、豊かな文化と強い誇りを持つバスク地方。その中心都市ビルバオに根を下ろすアスレチック・クラブは、単なるサッカーチームではない。地元選手だけで構成されるという独自の哲学を貫きながら、地域と共に歩み、愛され続けてきた存在だ。本記事では、その深い歴史、バスク人との絆、サン・マメス・スタジアムの熱狂、そしてビルバオという街の魅力を通じて、「バスクの魂」を体現するこのクラブのすべてを掘り下げていく。

目次

クラブの歴史:バスクの誇りとしての始まり

アスレチック・クラブ(Athletic Club)は、スペイン北部・バスク地方に位置する都市ビルバオを本拠地とするプロサッカークラブである。創設は1898年にさかのぼり、正式なクラブ化は1901年。スペイン国内でも屈指の長い歴史を誇る名門クラブである。

クラブ創設の背景には、19世紀末にイギリスから鉄鋼業の発展を目指して渡ってきたイギリス人技術者たちと、イギリスへ留学してサッカー文化を持ち帰ったバスク人青年たちがいた。彼らはビルバオの地に初めて本格的なサッカーを根づかせ、アスレチック・クラブ誕生の土台を築いた。

1902年、Bilbao FCとの合同チーム「Club Bizcaya」としてスペイン最初の全国大会であるコパ・デ・ラ・コロナシオンに出場し、初代王者となる。1903年には両クラブが合併して正式にアスレチック・クラブが設立され、以来スペインサッカーの中心で活躍を続けている。

1928年に創設されたリーガ・エスパニョーラのオリジナルメンバーでもあり、FCバルセロナ、レアル・マドリードと並んで一度も2部降格を経験していない三大クラブの一つとして知られている。

タイトル獲得数も輝かしく、リーガ・エスパニョーラ優勝8回、コパ・デル・レイ優勝24回(準優勝16回)はバルセロナに次ぐ記録であり、スペイン国内では名門中の名門と評価されている。

クラブの哲学:バスク人のみで戦うという信念

アスレチック・ビルバオを語る上で最も特筆すべきは、「バスク人選手のみで構成される」という独自の選手起用ポリシーである。これは1900年代初頭から続く哲学であり、現在に至るまでクラブのアイデンティティの中心を成している。

この方針に従い、クラブは基本的にバスク地方(スペイン・フランスをまたぐバスク文化圏)に縁のある選手のみをスカウト・育成・起用してきた。近年では、バスク系の血筋や育成期間にバスクのクラブに所属していた選手なども対象とする柔軟性が生まれているが、それでもこの方針は揺るがない。

この方針によって、地元住民との一体感が非常に強く、クラブは地域の象徴的存在となっている。また、クラブの下部組織「レサマ(Lezama)」は優れた育成機関として世界的にも知られ、アンドニ・スビサレッタ、フェルナンド・ジョレンテ、イケル・ムニアインなど多くのスター選手を輩出してきた。

クラブのアンセムと歌文化

アスレチック・ビルバオの試合前、サン・マメス・スタジアムに響き渡るのは、熱狂的なアンセム「¡Athletic, Athletic!」。このクラブソングはスペイン語、バスク語の両方で歌われることがあり、地元の文化を尊重する姿勢が感じられる。

「Athletic da bihotzez(心からのアスレチック)」は特にバスク語の象徴的な歌として知られ、ファンが心を一つにして歌うことでスタジアムに荘厳な空気を作り出す。これらの歌は、ただの応援歌にとどまらず、地域文化や誇りの表現としても機能している。

また、試合中にはファンによるチャント(応援歌)が何度も繰り返され、ホームスタジアムがまさに「サッカーの聖地」として機能する瞬間が生まれる。

ビルバオ市民とクラブの関係

ビルバオ市民にとってアスレチック・クラブは単なるサッカーチームではない。それは生活の一部であり、誇りであり、文化そのものである。

特にフランコ政権時代には、バスク文化や言語が抑圧される中で、アスレチック・クラブの存在が市民の精神的な支柱となっていた。クラブの勝利は市民にとっての勝利であり、クラブの苦悩は市民の苦悩と重なる。そうした一体感は、世界中でも稀有なほどに強い結びつきとして今日まで続いている。

地域密着型の運営方針も、その関係性をより強固なものにしている。クラブの理事や幹部には地域出身者が多く、ファンによるクラブ会員制度も活発で、試合やイベントの際には街全体がクラブカラーで染まる。

ファン文化の深掘り:情熱と連帯の象徴

アスレチック・クラブのファンは、「アスレティズァレアク(Athletizaleak)」と呼ばれる。これは単なる観客という意味を超え、「クラブとともに生きる人々」というニュアンスを持つバスク語の表現である。

試合日のビルバオは、まるで街全体がスタジアムになるかのような雰囲気に包まれる。バーやレストランでは赤白のユニフォームを身にまとったファンがピンチョスをつまみながら試合を語り合い、キックオフ前にはサン・マメス周辺が人で埋め尽くされる。

応援スタイルもユニークだ。例えば試合中に披露される巨大な横断幕(ティフォ)は、地元のアーティストやサポーターグループによって制作され、選手に向けた励ましや風刺、地域への誇りが描かれている。また、バスク語を交えたチャントや掛け声も頻繁に用いられ、言語を守り、誇示する手段としても重要な意味を持つ

ファン団体の中でも代表的な存在が「Peña Athletic」。これは世界中に存在するアスレチック・クラブの公式・非公式サポータークラブのネットワークで、彼らは試合観戦だけでなく、社会貢献活動や文化イベントにも積極的に参加している。

さらに、ビルバオには「一生に一度はサン・マメスで」という想いを抱いた国外在住のバスク人や外国人ファンも多く、スタジアムはまさにグローバルな聖地となっている。

ファンにとって、クラブは単なる勝敗を競う場ではなく、自己表現の場、連帯と帰属の証なのである。

最近のクラブ動向:躍進するバスクの魂

成績

  • 2023-24シーズンは国王杯優勝(1984年以来初)。
  • 2024-25シーズンはリーガ4位でシーズンを終え、レアル・マドリード、アトレティコに続き、欧州チャンピオンズリーグ出場権を獲得。
  • 同シーズンの通算成績はリーガ19勝13分6敗、勝ち点70。
  • ヨーロッパリーグでは準決勝まで進出。

スター選手

  • オイハン・サンセット:2024-25リーガのチーム得点王(15ゴール)、チャンピオンズリーグ出場決定に貢献。
  • ニコ・ウィリアムズ:22歳、スピードとテクニックに優れる左ウイング。今夏移籍市場でバルセロナやアーセナル、バイエルンなどが関心を寄せている 。今季はリーグで5アシスト。
  • アレックス・ベレンゲル:助攻リーダー(リーグ10アシスト)。
  • ミケル・ハウレギサル:守備的中盤の柱として、Sorare評価も高い(53.7)。
  • ヤライ・アルバレス:実力派センターバック。健全な守備陣を支える。

監督・組織

監督はエルネスト・バルベルデ氏。彼の元でクラブは安定した戦術と成績を残しており、再びCL出場を果たすなど成功を収めている。理事長はホン・ウリアルテ氏。

サン・マメス スタジアムについて

サン・マメス スタジアムは、アスレチック・クラブの魂ともいえる存在であり、クラブと街を象徴する「聖堂」として広く知られている。2013年に新しく建設されたこのスタジアムは、旧サン・マメスの伝統を受け継ぎつつ、近代的な機能とデザインを備えた施設として生まれ変わった。

収容人数は53,331人(東京ドームと同規格)で、スペイン国内では7番目、バスク州では最大のスタジアムである。ビルバオの中心部に近く、公共交通機関との接続も良好で、地元住民だけでなく観光客にとっても訪れやすい場所に位置している。設計はスペインのIDOM建築事務所が手がけ、外壁には光を取り込むETFEという半透明素材が用いられ、夜間にはクラブカラーの赤と白にライトアップされる。

スタンドの傾斜は急角度に設計されており、観客とピッチの距離が非常に近い。これにより臨場感が生まれ、サポーターの声援が選手に直接届く一体感ある空間が作られている。試合が始まると、スタジアム全体がまるで生きているかのように揺れ動き、アスレチックのホームゲームは特別な熱気に包まれる。

スタジアム内にはクラブ博物館をはじめ、レストランやVIPラウンジ、ファンショップなども併設されており、試合日以外でも地元住民や観光客が訪れる文化・観光拠点として機能している。UEFAのエリートカテゴリーにも認定され、国際試合や欧州大会の開催実績もある。

ビルバオという街の特徴

歴史と都市再生

ビルバオは19世紀から20世紀にかけて鉄鋼・造船業を主軸とする工業都市として栄えたが、1990年代以降の経済衰退に伴い都市再生を推進。グッゲンハイム美術館開設(1997年)を契機に、世界的な文化都市へと生まれ変わった。

芸術

  • グッゲンハイム美術館:フランク・ゲーリー設計のモダン美術館。
  • ビルバオ・ビエンナーレや野外彫刻など街全体がアートスペース。
  • カスコ・ビエホ(旧市街):14世紀のサンティアゴ大聖堂をはじめ歴史的建築が並ぶ。

食文化

  • ピンチョス:バスク風タパスで小皿料理が中心。特にプラサ・ヌエバや市場で味わえる。
  • 市場文化:リベラ市場など地元産素材を扱う市場が日常の中心。
  • チャコリなど地元ワイン、塩鱈コロッケなど多彩なバスク料理が楽しめる。

観光スポット

  • グッゲンハイム美術館、ビスカヤ橋(UNESCO世界遺産)、サンティアゴ大聖堂。
  • テアトロ・アリアーガ(劇場)、ロイヤル・バスク美術館(Museo de Bellas Artes)も地元民に愛されている。
  • サン・フアン・デ・ガステルガチェ鉱山島、リオハ地方など周辺観光も人気。

参考|アートと美食が交差するバスクの街・ビルバオ|グルメとカルチャーが楽しめるおすすめバル5選と注目スポット

総括

アスレチック・クラブは、英国由来のサッカー文化をバスク色豊かに昇華させたクラブである。その独自の人材政策と、「ファンのクラブ」たる精神は、ビルバオ市民の誇りとなり続けている。歴史的成功と地域への深い関与が、クラブを単なるスポーツ組織以上の存在へと押し上げている。

新サン・マメスは都市に調和した最新鋭スタジアムであり、観客の体験価値も洗練されている。近年の成績躍進と若手スターの台頭は、クラブの未来を明るく照らしている。

また、ビルバオ市は工業都市から芸術・食の都市へと脱皮し、クラブと街が互いに影響を与え合う関係性は、まさに「一体不可分」。クラブも街も、共に新たな時代を切り拓いている。

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