かつてはMLB選手のユニフォームの一部に過ぎなかったニューエラのキャップは、いまや全世界のファッションシーンで不可欠な“文化の象徴”へと進化した。中でも「別注(カスタム)」は、ただのプロダクトではない。色、刺繍、ストーリー、すべてに思想とアイデンティティが込められた“語れる”ヘッドウェアだ。
その動きはアメリカのショップから始まり、日本でも独自の進化を遂げる。さらに、インフルエンサーたちが、このカルチャーを牽引し続けている。本記事では、ニューエラの魅力の原点から、別注文化の最前線、そしてその背景にある人やショップまでを掘り下げ、いま世界中で熱狂を生む“ニューエラ別注”のリアルに迫る。

ニューエラの歴史とブランドの本質
1920年、アメリカ・ニューヨーク州バッファローで創業したニューエラ(New Era Cap Company)は、ベースボールキャップを中心としたヘッドウェアブランドとして100年以上の歴史を持つ。(オンラインショップ)
1934年にはクリーブランド・インディアンス(現・ガーディアンズ)のためにプロ野球チーム用のキャップを製造。1954年には現在の代名詞である「59FIFTY」が誕生した。以降、MLB唯一の公式キャップサプライヤーとして、スポーツ文化と密接に歩み続けている。
近年ではその機能性とスタイルの両立が評価され、ストリートファッションやラグジュアリー系の文脈でも支持を拡大している。ニューエラのキャップは、もはや「野球ファンのもの」ではなく、「カルチャーをまとった日常アイテム」へと進化を遂げている。

「別注」とは何か?
「別注」とは、特定のショップやブランドが、メーカーに対して特別仕様で製作を依頼したアイテムを指す。英語ではExclusiveやLimited editionという表現が使われる。通常のラインナップにはない色・ロゴ・刺繍・素材などを用い、そのショップならではの世界観が注ぎ込まれた限定モデルが展開される。
ニューエラにおける別注は、主に「59FIFTY」や「9FIFTY」といった定番シルエットをベースに展開され、野球・バスケなどのチームロゴをベースに再構築したものが多い。しかし、近年はより自由な発想による「完全オリジナル」の方向性も見られる。
別注ニューエラの人気とトレンド
現在、ニューエラの別注モデルは世界中で圧倒的な人気を集めている。特にZ世代やファッション・スニーカーヘッズを中心に、コレクションアイテムとしての側面が強くなってきており、発売日には即完売、リセール価格の高騰も珍しくない。
最近のトレンドには以下のような傾向がある:
- クラシックロゴやマイナーチームの復刻
90年代のヤンキース、マリナーズ、アスレチックス、ブルックリンドジャースなど、当時の配色やロゴを現代風に再構築したデザインが人気。 - 多彩なカラーリングと生地の個性
定番のネイビーやブラック以外に、セージグリーン、オフホワイト、バーガンディ、さらにはデニムやコーデュロイ生地など多様な表情が増加。 - サイドパッチ文化の浸透
オールスター記念や球団のアニバーサリーパッチ、ワールドシリーズなどをサイドに配置したモデルが、コレクターからも高評価。 - メッセージ性とストーリー重視
「どのショップが、なぜこの配色・ロゴを選んだのか」といった背景を共有すること自体が、ユーザー間のコミュニケーション要素になっている。
海外の人気セレクトショップ(別注ニューエラの聖地)
1. Hat Club(アメリカ)
言わずと知れた別注ニューエラの最前線。アメリカ発のキャップ専門ショップで、1992年に創業。ロサンゼルス、ノースホリウッド、フェニックスなどに旗艦店(Flagship store)を展開し、「#1 Hat Dealer」というタグラインが示す通り、ニューエラを中心に全米規模でキャップの熱狂的コレクターたちに支持されている店舗。
Hat Clubでは常時多数のHat Club Exclusivesとして、ニューエラとのコラボ別注モデルをリリースしている。カテゴリーはMLB・NFL・NBA・NHL・NCAAと非常に幅広く、リーグやチームごとのビンテージ風ロゴやパッチモデルが並ぶ。
特に「Maxed Out」シリーズや「Cattle Pack」「Safari Hat」など、ユニークなテーマやカラーバリエーションが多数展開されており、毎週水曜の“ドロップ”(新作発売日)には即完売するほどの人気ぶり。
2. House of Fitted Cap(アメリカ)
アメリカ・ニューヨーク州ブロンクスを拠点とするキャップ専門店で、別名「4U Caps」や「House of Fitted Cap」として親しまれる。
ニューエラやMitchell & Nessなどの限定フィッテッドやスナップバックを多数取り扱い、“custom, limited edition fitted hats and snapbacks” を専門にする大規模リテーラーである。オンラインショップでは毎日数十〜数百種類の別注モデルが掲載。
豊富な限定モデル、信頼性のある正規品販売、高品質なユーザー体験、そしてSNSを活用したコミュニティ形成により、肌で感じるキャップカルチャーを提供している。
3. Lids(アメリカ)
1993年にボストンで創業されたキャップ専門チェーンで、元々はスポーツヘッドウェアを中心に展開していた。1995年設立のHat World, Inc.が経営を引き継ぎ、2001年には倒産したLidsブランドを買収、以降“Lids”として再出発した。現在、アメリカをはじめカナダ、フランス、オーストラリア、イギリス、オランダ、プエルトリコに延べ1,100~1,500店以上を展開する世界最大級のライセンススポーツヘッドウェア小売り企業である。
一般的には「量販型」として認識されがちだが、2022年以降はオリジナル別注ライン「Lids HD」や「Lids Hat Drop」を展開し、ファッション性の高いコレクションも増加。入門者からヘッズまで幅広く支持を集める存在。
特に「Lids HD」は、毎週金曜に希少価値の高い限定ニューエラ59FIFTYキャップを発売するスタイルで話題を集める。インストア限定やオンライン限定もあり、コレクター心理を刺激する仕掛けが多数(例:MLB Fireworks、Casino Pack、City Connectなど)。ニューヨーク・クイーンズの実店舗は「Lids Hat Drop」の旗艦店となる。
4. JustFitteds(ドイツ)
ヨーロッパにおけるニューエラカルチャーの中心地。2008年にドイツ・ハンブルクで創業したキャップ専門店。ニューエラを含む限定キャップを中心に展開し、「クロスドバッツ」ロゴを掲げた自主ブランドも展開している。
ドイツのグラフィティやスケート文化と融合したデザインが魅力で、サイド刺繍のセンスやキャップの構成に独自の世界観がある。「JustFitteds Berlin Sticker」「Berlin Bear」などベルリンの都市をモチーフをにあしらった限定モデルが人気。
日本国内の人気ショップと別注戦略
日本でもニューエラの別注はストリートカルチャーと密接に結びついており、セレクトショップごとに異なる美学が存在している。
1. HOMEGAME TOKYO(東京)
2023年1月に原宿にオープン。アパレルブランド「Lafayette」の創設者・JUNがプロデュースし、旗艦的な帽子専門店として誕生。HOMEGAME CUSTOMシリーズ として、59FIFTYをベースにクラウンやバイザーまで全体を統一色でまとめた別注を展開。
大谷翔平モデルや、シアトル・マリナーズ、ヤンキースなど多様なチームカラーで抽選販売を行うスタイルも取り入れている。
2. Growaround(東京)
渋谷・宇田川町に位置するキャップ/ストリートブランドを扱うセレクトショップで、2020年頃からニューエラを中心に独自の別注展開を進めている。店名は「Grow Around=まわりに育つ/影響を与える」ことを意味し、ニューヨークなど海外カルチャーと東京のストリート感性を融合させるショップづくりを行っている。
別注モデルでは、米国買付やNY買付などからの仕入れで数十種単位の最新モデルや希少カラーの新作が毎週入荷しており、SNSでの告知も活発。別注キャップファンにとって必見の品質と選択肢。
3. The Cap(東京)
株式会社ビーンズ運営のニューエラ専門コンセプトショップ。店内の全てがニューエラ製品で構成されており、別注アイテムが全体の40%を占める日本でも唯一の専門店。
THE CAP EXCLUSIVEコレクションでは、MLB全チーム(ニューヨーク・ヤンキース、ロサンゼルス・ドジャースなど)をベースにした59FIFTY~9TWENTYまで、多サイズ・多スタイルで展開。NEW YEAR SP COLLECTION(2025年)では、モノクロ・ツートーンカラーで計8チーム展開。
希少価値重視の別注設計で、フロント・サイドロゴやカラーバリエーションに徹底的な工夫がみられる。
4. Capmania(香川)
SOSHI(YouTubeチャンネル「SOSHI Net」、約7.7万人登録)氏がディレクターを務める、NEW ERA正規取扱の公式店舗。スニーカーやストリートカルチャーに精通した彼のセンスと、NEW ERAの製品力が融合した、キャップ特化型ショップとして注目を集める。
「MFC STORE CUSTOM COLLECTION Design by SOSHI」として、新作別注がCAPMANIAのために作られ、店舗およびポップアップストアで展開されている。配色や刺繍、パッチなど細部にまでこだわったカスタムモデルで、スニーカー同様にキャップでコレクトできる設計だ。
スニーカーカルチャー×キャップ愛好という観点から、国内ファッション市場に新しい価値提案を持ち込んでいる。
ニューエラとインフルエンサー:スタイルを形にする存在
ニューエラ別注の人気を押し上げている最大の原動力は、SNSを中心に活動するインフルエンサーたちの存在だ。彼らはスタイルアイコンであると同時に、「情報源」としても機能している。
1. 朝岡周(Shu Asaoka)
東京出身。ミュージシャンとしても活動しながら、スニーカー好きが高じてファッション業界でも存在感を放つクリエイターであり、キャップスタイリングのトレンドセッターとして評価されている。
HOMEGAME TOKYOやTHE CAPなど、複数のニューエラ正規アカウントショップにて、巨人カラーやジャイアンツ別注キャップの色彩やディテールを提案。2023年~2024年にかけて、「周ERA」と呼ばれる自身監修の別注モデルシリーズがリリースされており、ファンの間で「見たことのない美しいニューエラ」として話題に。
YouTubeにてキャップのスタイリング動画や開封レビュー、別注背景の紹介動画を定期的に投稿。
2. Soshi(Soshi2.0)
日本を拠点に活動するスニーカーYouTuberであり、ニューエラの正規アカウント店「CAPMANIA」のディレクターも務めるインフルエンサー。YouTubeチャンネル「SOSHI Net」は、登録者数7万人以上を抱え、国内外のスニーカー好きから熱い支持を受けている。もともとはスニーカーへの愛から発信を始め、現在ではキャップ、ファッション、ガジェット、VLOGまで幅広くコンテンツを展開。
彼の最大の特徴は、スニーカー紹介における映像美。単なるレビューにとどまらず、音楽とカメラワークを駆使して「魅せる」映像を作る。スニーカー同様に“キャップをコレクションする”という価値観を広めており、彼が手がける別注キャップは即完売になることも多い。
特に、MFC STOREとのコラボモデル「MFC CUSTOM COLLECTION」は、カラーリング・刺繍・ツバ裏の配色に至るまで彼のセンスが反映された逸品。スニーカーヘッズとキャップファン、両者の熱を取り込んだ企画になっている。
3. Davii P.
主にInstagramで活動しているキャップコレクター兼インフルエンサー。ニューエラ(New Era)を中心に、Hat ClubやJustFittedsの限定モデルやアニメ・ポップカルチャーをテーマにした別注キャップを投稿・レビューしている。
キャップのデザイン、テーマ、ストーリー性を重視していて、アニメやサブカルチャー要素を取り入れたシリーズキャップの紹介で知られている
4. Benjamin Christensen
Instagramで約1.3万人フォロワーを抱えるキャップ愛好家で、Hat Clubのスタッフ兼Fitted Capの“顔”となっている人物。UOSOJCを卒業した“プロの声優”でもあり、New Eraキャップ、タトゥー、Champion NBAジャージのコレクターとして知られる。
InstagramではHat Clubの別注キャップや自らのコレクションを魅せる投稿が多く、キャップのデザイン・カラーリング・フィット感などの詳細を解説 。TikTok動画では「スタッフおすすめ」「キャップおすすめトップ10」などの形式で紹介し、フォロワーに具体的な購入アドバイスを行っている。
5. Swuve Jay
キャップやストリートファッションを中心としたビジュアル投稿、着用レビューを発信。ニューエラをはじめとしたFitted Capを愛用し、 スタイル提案やコレクション紹介 を担うインフルエンサーであり、Good Times Clothing & Essentialsの共同オーナーを務める。
6. Rahnni Fitteds
インスタグラムのフォロワー数は約26.8万人を誇るキャップ愛好家兼クリエイター。主に 59FIFTYを中心に、ツバ曲げ技術やスタイリング動画を発信。「BURRITO BRIM CURVE METHOD」 といった形状加工に特化した動画を頻繁に投稿。例えば、デトロイト・タイガース帽のツバ加工を1日で紹介する動画が数千以上のいいねを獲得している。
また、“unstructured fitteds”(ノンシェル構造) と呼ばれる帽体の柔らかさを活かした形作りや、ツバのスタイルに関するTipsをTikTokでも発信。動画は10万以上のいいねを集めるものもある。他にも、Hat Clubの「Cattle Pack Astros」など希少モデルを紹介し、その素材や形状へのこだわりを丁寧に語っている。
7.Wilder Fitteds
TikTokでも人気で、累計「いいね」500万以上、フォロワー28万以上という人気アカウント。Hat Club(フェニックス支店・PHX)のソーシャルメディアコーディネーターとしても活動し、Hat Club関連の別注情報を発信。「Para Mi Gente」シリーズなどHat Club限定モデルの製作/発売イベントを現地レポート。
動画では、カラーや形状、刺繍・パッチなどのディテールを細かく解説し、製品そのものの魅力を引き立てるスタイリッシュな投稿が特徴的。Hat Clubの別注キャップを中心に発信している。
まとめ:別注という文化が、ニューエラを次のステージへと導く
ニューエラのキャップは、単なる「MLBの帽子」という枠を飛び越え、現代ストリートの自己表現の象徴になりつつある。
別注という手法は、地域やショップの個性を可視化し、カルチャーを帯びた“語れるキャップ”を生み出す。そのムーブメントは、SNS、インフルエンサー、リセール市場と結びつき、さらに広がりを見せている。
ローカルな価値観と、グローバルなブランド力が出会う場所。それが、ニューエラの「別注」である。

